私の中学・高校は私立の男子校でまわりはむさい男ばかり。自然と外部やメディアの女性に目が向いた。好きだったのは、アグネスチャン、あべ静江、キャンディーズ、そして小林麻美。
「草原の輝き」は鮮烈なデビューだった。あの独特の声と長い黒髪に私は惹かれた。写真がプリントされた下敷きを使ってたし、レコードも随分購入した覚えがあるが、ほとんど友人に譲ってしまったため、手元にはわずかしか残っていない。数学の授業中に「草原の輝き」をハミングしていて、先生に出欠簿でこっぴどく叩かれたのも、今ではいい思い出だ。声のオリジナリティという点では他に並ぶものがなかったように思う。
彼女はデビュー当時から異質の魅力を備えていた。ラジオのパーソナリティあがりという経歴と、ジャリタレにはない色気、反面清楚な歌声、これらが渾然一体となってあべ静江像を構築していたのではないかと思う。「水色の手紙」で火がついたが、やはりこの人のお勧め曲は「コーヒーショップで」、そして「生まれたままの姿で」ではないだろうか。前者のデビュー曲は、今の耳で聞くと平凡かも知れないが、当時としてはただの循環パターンでない曲の展開に斬新なものを感じた記憶がある。後者は、「本当の私をあなたは知らない」という歌詞が思春期の人間には強烈だった。なお、「なんで、あべ静江がアイドル?」という方はこちらを。
「見ごろ食べごろ笑いごろ」というバラエティ番組、覚えてます?伊東四郎が「電線音頭」をヒットさせたあの番組だ。小松政夫もいい味出していた。ここでのキャンディーズは最高でだったと思う。アイドル歌手としてデビューしたにもかかわらず、ぐいぐいと三枚目の線で押してくる彼女達はとてもイキイキとしていた。この、人をホッとさせる人間性と正確な歌唱力がキャンディーズの魅力だ。確かに3度3度のハモリしかやってないが、3人の声のバランスと音程の確かさという点で他の歌手とは一線を画している。事実、解散間近にFM東京の長寿番組「小室等の音楽夜話」にハイファイ・セットと出演した際、ハイファイ・セットと合わせて6人でセッションを組んで歌ったことがあったが、違和感はなく、特にアカペラで歌った「トライ・トゥ・リメンバー」はとても素晴しいものだった。ハイファイ・セットとキャンディーズの歌の資質の良いところが程よくミックスした、まさに「ハイ・キャン・セット」のナンバーだった。
なお蛇足だが、私はミキちゃんが好きだった。
歌唱力は?だが、デビュー当時とても可愛いかった。歌い方もとてもたどたどしくて。化粧品のCM(BGMは尾崎亜美)で久しぶりに見た時はかなり変貌を遂げていてびっくりした。
中学生の頃はすでにメッセージフォークたる反戦フォークは下火で、身のまわりの現実や夢を題材にしたフォーク・ソングが主流になっていた。その頃よく聴いたのは、赤い鳥、かぐや姫、五輪真弓、吉田拓郎、シモンズ、高木麻早、井上陽水、古井戸、猫、チューリップ、六文銭、ガロなど。そのうちいくつかについて。
期せずして最近、「翼を下さい」がヒットしている。昔TBSラジオで土曜の9時から「ヤングタウン東京」という番組をやっていただが、一時期赤い鳥がレギュラー出演していた。だから毎週彼等(彼女等?)の歌に接することができたのである。「忘れていた朝」「河」「翼を下さい」「赤い花白い花」「竹田の子守歌」など素晴しい曲ばかりだった。その頃はバンドで赤い鳥のナンバーもやりたかったが、如何せん、男子校で女性ボーカルを調達するには無理があった。
ここで一つ当時から疑問に思っていたことがある。「翼を下さい」の2番には、
今 富とか名誉ならば
いらないけれど 翼が欲しい
というフレーズがあるのだが、レコーディングでは省かれている。この歌詞があって初めて次の、
子供の時 夢見たこと
今も同じ夢に見ている
というフレーズが活きると私は思うのだがいかがなものか?ちなみに最近、長女が小学校でもらってきた譜面にはしっかりとこの歌詞が入っていて感激した(レコードも歌詞カードには書いてあるけど)。なお上記の曲以外に、「言葉にならない言葉」「美しい星」「虹を歌おう」「誰のために」などもお勧めだ。
最初に出会った「かぐや姫」の曲は「あの人の手紙」。どこの文化祭へいってもこの曲を演奏していたといっても過言でないと思う。もっとも「あの人の手紙」はかぐや姫のレパートリーの中では珍しくメッセージ性の強いナンバーである。この曲を含むかぐや姫のデビューアルバム「はじめまして」は実にいい出来だ。
やりたい事をやるのさ
それで何が悪いのかい
この「青春」の一節に、その頃の自分の気持ちを凝縮したものが詰め込まれていた、そんな気がする。ライブ盤ではあるが、「かぐや姫おんすてーじ」を当時は一番良く聴いた。ちなみにこのアルバムの見開きジャケットの内側には、若き日の吉田拓郎、小室等、山本コータロー、そしてコンサート当日の主役であったらしい、白川和子さんの写真がデザインされている。とにかく「かぐや姫」は、こうせつ、正やん、パンダさんの3人の個性がかなり異なるため、グループの表現力の幅がとても広く、聴いてる者を飽きさせない素晴しいユニットだったと思う。一番好きな曲は「置き手紙」。
今でこそ、=「恋人よ」という図式が世間一般に成り立っているが、私の中では、「少女」であり「煙草の煙り」なのだ。特に私は「少女」が大好きである。これ程、ビビッドに情景が浮かび、客観的に幼い少女の心理を表現してしまう歌詞は当時そうそうなかったと思う。余談だが、今年(1998年)は関東地方も雪が多く、結構積もったりした。数日たって残り少なくなった雪をとても寂し気に見ている、長女の横顔を眺めては、この「少女」が頭の中でぐるぐると回っていた。
実はあまり最初は好きじゃなかった。ちょっと説教臭い感じがして。でも一旦好きになるとはまる。詩も声も拓郎以外の何ものでもないということに気がついてしまうから。そういうわけで少し後乗りだったけど、アルバム「今はまだ人生を語らず」は良く聴いた。すみからすみまで。ただこの年になってからの方が拓郎の良さをより強く感じているかも知れない。今は「落陽」がお気に入り。
ごめんなさい、「恋人もいないのに」一曲しか知らない。でもこの一曲が素晴しい。曲の頭から唄い出しにつながるアレンジ、女性二人のハーモニーの綺麗さ、シンプルなスリーフィンガーのギター、いまだにこの曲を聴くとわくわくする。
確かヤマハのコッキーポップからデビューしたと思う。今になって聴くと、結構甘くてアルバムを全曲続けて聴くのはちょっとしんどいが、彼女の声の透明感はピカ一である。やはりお勧めは「ひとりぼっちの部屋」そして「思い出が多すぎて」か。
近年の奥田民生とのセッションも出来が良く、本当に息の長いアーティストである。私が初めて聴いたのはアルバム「氷の世界」。今聴いても実にバラエティに富んだ力作だと思う。その頃好きだった曲は「白い一日」。この小椋佳のさらっとした一曲に自分の日常を重ねて、「僕は何なんだろう」と自問自答していた頃の自分が懐かしい。
TBSラジオの深夜放送、パック・イン・ミュージックは二部構成だった。いつも一部のラスト30分位で眠気が襲ってきて、気がつくとあまり聞いたことのない声が流れていて、そのうち朝になるというパターンを繰り替えしていた。その日もいつものように放送の途中から眠りこけ、ふと気がつくと夢の向うから聞きなれない歌が流れていた。メロディラインがとにかく斬新で、あっという間に私は覚醒していた。その曲は「ベルベット・イースター」といい、DJは荒井由実という名前をクレジットした。夜中にも関わらず私は興奮していた。
「凄い!こんな曲を作る人が日本にいるんだ......」
今でこそ大袈裟に聞こえるかも知れないが、その当時のフォークを聞き慣れた耳には革命的だった。洋楽ならともかく邦楽の分野にこんな素晴しいアーティストがいるとは!
「明日、学校で皆に話そう!」
そう心に誓って再び眠りについた。これが最初のユーミンとの出合いである。
翌日この話をすると何人かが同じように聞いており、
「荒井由実っていいよ!」
という共通見解で盛り上がったのを覚えている。ただこの時点ではまだレコードが発売されておらず、それからしばらくはこのことを忘れていた。
ある日、父親が東芝に勤めているクラスメートが、
「こんなレコードあるけど聴いてみる?」
と学校に持ってきたのが、なんと「ひこうき雲 / 荒井由実」。いきなり蜂の巣をつっついたような有様となり、とにかく何人かで順番に借りることに決めた。
数日後やっと順番が回ってきたので、さっそく家に持ち帰りじっくりと聴いてみる。思わず微笑みが浮かぶ自分がそこにいた。
「こりゃすごいわ!!」
実際歌は巧くないし、声もよくない(ごめんなさい!)。でも最初にラジオで聞いた時に感じたメロディーラインのユニークさは、収録されているすべての曲で発揮されていた。加えて先日は気付かなかった歌詞のセンスの良さ。夜明けの雨はミルク色といってしまうこのセンスはどこから来るんだろう?身体中の血が騒ぐのを押さえ切れなかった。それに巧くはないにしろ、言葉をひとつひとつ大事に噛み締めながら、ストレートに唄う、その歌い方にも、強い魅力を感じた。しばらくは、私の音楽仲間の間ではこの話題で持ち切りだったように思う。今でもアルバム「ひこうき雲」はすべての曲がお気に入りだが、あえて一番を挙げれば「雨の街を」となる。
しばらくして、セカンドアルバム「ミスリム」が発売された。これがまた前作を超えるデキで仲間と狂喜乱舞した。前作より一層洗練されたこのアルバムはユーミンの作品中ベストだと今でも思っている。なかでも「瞳を閉じて」が一番好きだ。この「ミスリム」を初めて聴いた時に私が感じたのは、なんてビジュアルな作品なんだろう、ということ。メロディ、詩それぞれが要因となっていると思うが、聴くと心の中も含め、風景が手に取るようにわかる、これが彼女の真骨頂だろう。
この頃はこういうふうに新しく発表される彼女のアルバムに次々に飛びついていった。ただ「紅雀」を聴いた時に何かが変化していると感じ、その後の諸作で確信した。リズム主体に走り出したなと。それは決して悪いことではないが、聞き手にとってメロディラインや詩の印象を薄めてしまうように私には思えてならない。実際「悲しいほどお天気」以降もアルバムは買い続けたが、いつのまにかその世界に入っていけないもどかしさを感じるようになった。現在も折りにふれて彼女のアルバムを聴くが、少なくとも私の中ではユーミンは終わってしまっているようだ。それはJAZZの世界で、1950〜60年代のArt PepperがArt Pepperであって、1970年代のArt PepperはArt Pepperではないというのと同じ意味で。
高校生の時、生徒会主催のレコードコンサートがあった。そこで初めてこれを聴き、物凄く感動した。曲も声も(特に表現力は日本人離れしていると私は思う)センス抜群。それもそのはずでバックが凄い。矢野顕子、矢野誠、大瀧詠一、山下達郎、細野晴臣、鈴木茂、大貫妙子、村上秀一、松任谷正隆というそうそうたるメンバーがクレジットされている。私のお勧め曲は「忘れかけていた季節へ」。吉田美奈子作詞・作曲のこの曲は私を金縛り状態にする。御存知「夢で逢えたら」も収録。
太田裕美、好きだった。ほとんどのLPを持っている。でもよく聴くのはこの1枚だけ。一番ニューミュージックよりの内容だからか。この頃のヒットメーカー、松本隆/筒美京平コンビに混じって松本隆/荒井由実が2曲ある(「袋小路」「ひぐらし」)。「木綿のハンカチーフ」の影に隠れてしまいそうだが、この2曲なかなかの佳作だ。「木綿のハンカチーフ」に関してはシングルバージョンよりアルバムバージョンのアレンジの方が優れていると私は思う。
ラジオでこの中の「丘を越えて」を聴いた時、無性に他の収録曲も聴きたくなり、購入した。早くも矢野顕子節が開花している。個性が強い分、受け入れる人と受け入れられない人とはっきり別れるとは思うが。「電話線」「気球にのって」など今聴いても斬新な曲のオンパレードである。ところで、Kate Bushと矢野顕子って声も歌い方も良く似てないだろうか。車中でKate Bushの曲を聞いていた時に、矢野顕子が英語で歌っているんだよ!と友人にいったら、本気で信じてしまったから。
現陽水婦人の石川セリが70年代に出した2枚のアルバムをカップリングした2枚組LP。だから1枚目と2枚目はかなり雰囲気が異なる。まず1枚目では「八月の濡れた砂」がいい。これは同名の日活映画(なつかしい!)の主題歌だった。2枚目では荒井由実が3曲提供している。バックは松任谷正隆、伊藤銀次、後藤次利、矢野顕子、村上秀一、そしてシュガーベイブなどなど。シュガーベイブがバッキングコーラスを務めた「なんとなく・・・・・・」はお気に入りの一曲。最近一時的だが久しぶりに石川セリがアルバムを出しているのは嬉しい限りである。ニュース23のスタジオでのライブも胸を打つものがあった。あの独特の声はいまだ健在である。